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第8話 契約と血筋と揺れる正義 ― 兆し

last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-12 10:11:06

 花霞地方裁判所桜都支部・執務室。

 普段は穏やかな長峰敦子事務局長が、珍しく足早に入ってきた。

 両腕には分厚い訴状ファイル。息を整える間もなく、桐生所長の机に置く。

「しょ、所長……重大案件が届きました……!」

 桐生重信所長は眉間に皺を寄せ、ゆっくりとファイルを開いた。

 静まり返った執務室に、低い声が響く。

「事件名――桜都市水族館建設請負契約 無効確認請求事件。原告は桜都建設工業。地元で30年続く中小企業だ。被告は……国内最大手の一角――東條カンパニー」

 その名に、執務室はざわめいた。

「えっ、東條……!」

「水族館って、自治省の目玉事業じゃ……」

 職員たちが顔を見合わせる。

 桐生は訴状をめくり、要旨を読み上げた。

「契約不適合責任は10年の無償追加工事。遅延損害金は1日1%。原告はすでに数百万円の負担を強いられている……工期が遅れた原因は、被告の設計変更や資材調達難もあると」

 事務官たちの表情が引き締まる。

 菊乃は血の気を失い、指先が冷たくなった。

 (……姉様の会社が……訴えられて……!)

 桐生は訴状の束を整え、ため息を吐く。

「地元の中小企業が国内最大手を訴える。自治省の事業まで絡んでいる……全国的な大事件だ。考えただけで胃が焼ける」

 乱暴に引き出しを開け、常備の胃薬を水もなしに飲み下した。

「よりによって、うちの支部に……寿命が縮む」

 その言葉に職員たちがひそひそと声を交わす。

「新聞社やテレビが押し寄せるぞ……」

「桜都支部が全国ニュースに……」

 菊乃は唇をかみ、顔から血の気を失っていた。

 ――その空気を切るように、鼻歌が響いた。

「ふんふんふふ〜ん♪」

 革ジャン姿の法子が、コーヒーカップを片手に入ってくる。

「おっはよ〜! なんかピリピリしてるね。プリンでも買い忘れた?」

 執務室が凍りついた。

 事務官たちは心の中で(空気読め……)と突っ込む。

 桐生はこめかみを押さえ、胃薬を握りしめたまま天を仰いだ。

「……本庁から直々に指示が来ている。“世間の目があるから合議制でやれ”と。結局、誰も一人で背負いたくない案件ってことだ。判事三名の合議制で行う」

 桐生の声は重い。

「裁判長は私。左陪席は司。右陪席は真壁」

 事務官がざわつく。

「やっぱり合議……」

 不安が広がる中、法子は胸を張って笑う。

「質問係はわたしか! バリ
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